秋が深まり保育園でも「歩け歩け」の季節です。
その距離がすごい。
金曜日に、田園都市線の二子玉川駅から大田区の保育園まで、多摩川沿いを約10キロ。2歳児クラスの子どもたちも数名が挑戦しています。
「1年後なら皆歩けるんだから、何もこの子たちに歩かせることはないのではないか」という声が聞こえてきそうですが、まずはどんな様子だったかということから。2週連続歩いてみた後で園長先生からお話しを聞くと「なるほど~」と思うことがたくさんありました。
その1.体力だけあっても歩き切らない。
くじけそうになる自分の気持ちを自分で立て直しながら歩ききること。これは、普段の生活の中で何か障害があった時に解決する力を持っているかどうか、というところで違いが出てくるようです。いつも泣いて大人が助けてくれるまでアレコレ主張しているような子は、まだまだそういう力が足りないのだそうです。
M君は、自分で自分に向かって何やら話しながらしっかりと気持ちを立て直し、何度も何度もそれをして、最後まで歩き切ったのだそうです。
うちの小僧さんは、最後は半べそで歩きながらも、園長先生が「じゃあ分かったよ。おんぶしてあげよう」としゃがむと「いいんだ」と首を振り、頑張って歩き切ったのだと。後で聞いてちょっと涙が出ました。
園長先生「遠くの目標を見通す力と、目の前のことをクリアしていく力、両方が必要です。気持ちを立て直せないような子どもだって無理やり手を引っ張れば歩けますよ。でもそれでは意味がない。ただ単に歩いたっていうだけです」。
その2.楽しみながら進んで行けるか?
歩きながら空を見上げたり、木の枝を拾ってあちこちたたいてみたり。その棒にリュックを引っかけて運んでみたり。お山を見つけて上ってみたり、バッタを捕まえたり。
子供たちは、自然の中から自由自在に面白いものを見つけ出し、そこから遊びがどんどん展開されていったのだそうです。
ただ長い距離を歩いたというのとは違う。自然の中での“遊び心”ですね。
「体力はあって、ただただ歩けちゃう子もいますよ。でもね、もしそれが人生だったとしたら、そういう人生って楽しいかしら?」
こんなお話しもありました。
保育園では、子供たちにはアンパンマンなどのキャラクターに触れさせたくないと考えています。キャラクターに触れる生活をしてきたある子の場合。多摩川歩きの途中で遊ぶにも、キャラクターが起点となって、まずは「キティちゃんがここにいて」というところからごっこ遊びが展開されていくのだそうです。彼女はこの春から2歳児クラスに入園しましたが「2歳前に脳にどれだけ刷り込まれちゃうかがよく分かりますね」。
鋭い行動観察力ならでは。小さなトピックスが大きな意味を持つのだな。
「ところで、何故今、このタイミングで2歳児たちを歩かせたのでしょう?」と聞いてみると。
「あ、それはね、『自律』がどれだけ育っているかを見たかったから!」と即答でした。
『自立』と『自律』は違うもの。
『自立』とはひとつひとつのことを自分でできるということ。パンツをはける、トイレに行ける、ご飯を自分で食べられる。
『自律』は、小さな『自立』のひとつひとつが組み合わさって、全てを総合的に行う力。そこには、歩きながら気持ちを立て直す力も、楽しみを見つけて遊びを展開させる力も含まれています。目標に向かって取り組んだり、友達の気持ちも大切にしながら協力したり、困った時にちゃんと伝えたり。
「全ての能力が一点集中して成立することかな。年齢によって違いがありますが」。
2歳後半というのは、ちょうど「自律がどれくらい育ってきたかしら―?」というタイミングなのだそうです。
「こうしたい!」とか「これは面白い!」とか、「あそこまで頑張ろう!」というような気持ちが自然に湧きあがってくるかどうかがとても大切なのですね。
心の中の『泉』を、日々育んでいるのだな。