いのちの生まれる場所で、食の大切さを考える
松が丘助産院の「食の会」に参加してきました!
松が丘助産院は、住宅街の路地に佇む木造の一軒家です。中へ入ると、お灸のもぐさやアロマオイルの香り、赤ちゃんとお母さんのゆったりとした暖かな気配に不思議と気持ちが落ち着きます。
お部屋からは、健診に来た妊婦さんに、優しくそして時に厳しく、安産のためのアドバイスを親身になさる宗 祥子先生の澄んだ声が聞こえます。
松が丘助産院では、妊娠中や母乳育児によい野菜中心の昔ながらの和食を学ぶ「食の会」を毎月定期的に開いています。
この会は妊産婦さんのみならず日本の伝統食に興味のある方は誰でも参加できるとのこと。
9月のとある日、日々生きメンバー4人が参加してきました。
基本は、食べること―――「松が丘ごはん」ってどんなごはん?
料理スタッフの登坂明子さん、高松裕子さんが手際よく段取りしながら料理について教えてくださいます。参加者全員で約20名分の食事を作りました。
野菜を切ったり、和え物したりしながら「松が丘ごはん」についての説明を聞きます。
「ここでのお食事は、油、砂糖、みりんを使っていません。おいしいお出汁が基本です。油の代わりにお出汁を使って炒め煮してもおいしいですよ。」
まずは昆布とかつをぶしの出汁の取り方から。
「出汁に使った昆布は水と酢、ちょっとの醤油、しょうがで煮るとさっぱりした昆布煮に。かつをぶしはから煎りすればふりかけになります。」
どちらも味見させてもらうとじんわりとおいしい。
この日のメニューも、ストックしておくと便利な簡単野菜レシピがたくさん盛り込まれています。
基本は酵素玄米と野菜中心の和食ですが、少しのお肉でボリュームUPさせたメニュー例として、お肉を使った一品もあります。
「ご飯は2種類あります。ひとつは長岡式の酵素玄米。これは玄米を特殊な方法で炊き上げ、炊飯ジャーに入れて1週間持つという消化にとてもいいご飯。もうひとつはさまざまな雑穀を混ぜたご飯です。」それから天然酵母パンもありました。パンやパスタは主食にせず、あくまで主食はお米です。
良質な食材と調味料(醤油、味噌、塩)、きちんと取った出汁、それからしょうが、梅、海苔、柑橘類などでアクセントをつける。煮たもの、生のもの、炒めたもの、野菜それぞれの食感と色合いがおいしさの秘訣なのかな。
子どもに健康に育ってほしい、日々のごはんのなかで本当のおいしさを伝えたい、それが子を育てる母の願いです。
日々生きメンバーにとってはもはや懐かしい(?)妊産婦時代ゆえ、お腹の大きな妊婦さん、おっぱい中のママとともにお料理するのもまた楽しい時間でした。
「食の大切さ」を伝え続ける理由
いよいよお料理が完成、皆さんでお食事をいただきます。参加者の自己紹介から始まり、宗先生のお話しを伺います。ご自身の食と健康と子育てにまつわる経験についてもお話しをしてくださいました。
遡ること宗先生が22、23歳の頃。1年ほど、ひどい腰痛で何をしてもよくならないなか、10日間のヨガ道場に参加して劇的に回復したとのこと。
「そこで学んだことは、人に頼っていてはいつまでたっても治らない、自分から治す、ということなの。病は教えなり、そこから学べ、ということです。」
そしてヨガと玄米菜食を始めたのが24歳、毎日5kmを走り続けたといいます。
「この時期に体力ができたんですね。その後29歳で結婚、31歳で出産。そうしたら生まれた赤ちゃんの顔に赤く湿疹ができてとてもかゆそうだった。それで、中野の野方にあった自然育児研究所の山西みな子先生のところへ行ったんです。先生はお母さんが何を食べているか、どんなお産をしたかを聞いて、これは卵アレルギーでしょう、とおっしゃる。それで卵のない生活に変えたんです。難しく考えず卵の入っているものは一切食べない。すると3日目で赤ちゃんのほっぺの赤みが消えて、4ヶ月できれいになりました。私はもともと玄米菜食の食事をしていたのに、妊娠をしてタンパク質が必要だと思って妊娠中にせっせと卵を食べたのが原因です。」
当時中野区役所にお勤めされていた宗先生、当時は育児休暇もなく産後2か月半で復職されます。お子さんがどうしてもミルクを飲まないので、山西みな子先生アドバイスのもと、職場から保育園まで授乳に通ったとか。
「赤ちゃんがあんまりミルクを飲まないので、自分で自分のおっぱい飲んでみてわかったの。ああ、そうか、私のおっぱいおいしいんだって!それからはもう一年間、おっぱいのこと一直線でした。」
おっぱいと子育ての基本はごはん
こうした自身の体験から妊娠中の過ごし方が大事、そして赤ちゃんは胎児の時代が本当に大事だとおっしゃいます。
「とにかくね、化学的なものを入れないこと。子どもに偽物を食べさせないこと。シンプルなものを手作りしたら、よけいなものは入らないでしょう。」
「それから甘いもの、乳製品をやめる。これは体を冷やします。」
「お母さんの仕事はごはんを決まった時間に食べさせること。当たり前のことを当たり前にすることがとても大事です。基本はごはんですよ。」
そうだ、そうなのだ。お母さんの仕事は、毎日子どものごはんを作り、決まった時間に食べさせることなんだ。宗先生の言葉が胸に響きます。それ自体がすごくシンプルで当たり前なのに、難しいことでもあって、それがいまの育児の難しさを現しているようにも思いました。
大事なことはすべて子どもから学ぶのです、と宗先生はおっしゃいます。
「おっぱいで育った赤ちゃんは五感すべてで安心と安定を感じています。食べものが変わるとぎゃーぎゃー泣いていた赤ちゃんが夜寝てくれるようになって、母子ともに穏やかになります。でも始めるのはいつからでも大丈夫、遅いということはありません。半年で人の細胞は生まれ変わりますから。この食の会でお伝えした食事がベースにあると、ときに脱線しても、いつでも戻ってこれるんです。」
参加者からの質問や感想も交えながら、おいしくごはんを頂き、会はお開きとなりました。
被災地の妊婦さんに安心してお産をしてほしい
――東京里帰りプロジェクト
宗先生が代表を務める「東京里帰りプロジェクト」についてお話しを伺いました。
3.11の地震とそれに続く原発事故は甚大な被害をもたらし続けています。ニュースで流れる映像をみて「被災地にも妊婦さんがいる。冷えていると難産になる。暖めてあげなきゃいけない。」と、即座に都内の助産院に被災地の妊産婦さんの受け入れ協力を求め、10日ほどで支援プロジェクトを立ち上げたといいます。
里帰りした実家のような環境で安心してお産をしてほしい、という宗先生の想いと実行力が多くの方を動かし、これまで67名(10月25日時点)を支援されました。
地震、津波はもちろん、放射能の問題は、社会生活、家族、そして出産・育児を現在もなお脅かし続けています。
「妊婦や子どもが後回しになっているのが現状なのです。被災地の不安はこれからも続くでしょう。現地の助産師会と連携しながら、助産師の支援も行っていきます。今後もぜひプロジェクトを知って、利用してもらいたいと思います。」
日々精力的に活動されている宗先生ですが、今日も松が丘助産院で妊婦さんの体にふれ声をかけ、お産に立ち会っていらっしゃいます。「経営的にもそうですが、助産院の仕事が私の仕事なのです。ここをないがしろにはできません。」
3.11以降松が丘助産院でもボトリングされた自然水、野菜は西のものを取り寄せるなど、安全には特に気をつけているそうです。
松が丘助産院は、助産師さんのサポートのもと、赤ちゃんがお腹のなかから大事に育てられ、母子が安心してお産のできる場所です。
いのちの生まれることの大切さをすべてにおいて優先した、安心して子どもを産み育てられる社会であってほしい。
宗先生のお話しを聞いてそう強く思わずにいられません。
子育てのみならず人が生きていくうえで大事な原点を教えていただいた、そんな学び多き時間でした。
子どもはお母さんの作ったもので大きくなっていく。そしてそのお母さんを支えるのがお父さん。(←ここ大事!)
父親が普通に子育てできる社会にならないと変わらないよね、と宗先生と意見が一致しました。
「日々生き」も、もっと夫を巻き込んでいこう!というのが今後のテーマのひとつです……。
(文責 Satoe YASUDA)
松が丘助産院 http://www2.odn.ne.jp/~cdk23230/
東京里帰りプロジェクト http://www.satogaeri.org/
〜参考になる本をご紹介〜
![]() 「母乳で育てるコツ」 山西みな子 |
![]() 「乳がんと牛乳 ――がん細胞はなぜ消えたのか」 ジェイン・プラント、佐藤章夫 |
|
![]() 「こんにちは私のヨガ ――美しく変身する107の秘密」 内藤影代 |
![]() 「ナチュラルなお産」 宗祥子 |
宗先生のお話を伺い、日々生きメンバーが感じたこと。
宗先生はお母さんを育てる“大(おお)お母さん”
私は病院で出産したのですが、振り返ると妊婦だった期間、自分が母親として育っていった感じはしない。だから産んでから困った。半年後に今お世話になっている保育園と出会っていろいろ教わり、やっと安心して子育てできる環境になりました。
早々に松が丘助産院の戸をたたいたお母さんたちは素晴らしい。良質な食事でおなかの赤ちゃんもスクスク育ち、とても良いスタートをきれるのでしょう。
(by Mitsuko)
あーーもっと早くに知り合いたかった!
妊婦の頃は食べたいものを食べ、おなかの子どものことなど気にせず過ごしていた私にとって、反省することの多かった食の会でした。
それは胎児の時代から食育がはじまっているという宗先生のおことば。たしかに食いしん坊の妊婦からは、食いしん坊の子どもが生まれたぞ。そういうことか……。
松ヶ丘助産院は、母になる準備がゆっくりできる場所。からだのこと、赤ちゃんのこと、そして母になってからのこと。食を通して、生きるために必要なことを沢山教えてもらいました。
(by Sachie)
私にとっての帰る場所
二人の息子を松が丘助産院でお産しました。ここは、私にとってそこからもうひとつの人生が始まったような、いつでも帰ることができる場所(経験)です。都内でも水の汚染がニュースになったとき、妊婦さん、小さな赤ちゃんと二人で過ごすお母さんがどんなに心細い思いをしているかと胸が締めつけられました。被災地にいたっては想像を絶します。
どうか安心して赤ちゃんがお母さんのお腹で育ち、この世に生まれてきてくれますように。そしてすくすくと大きく育ちますように。
(by Satoe)
本物を作り、本物を食べよ
滋味あふれるお料理を前に、「食」の大切さについて教えていただきました。
「生活の基本は食べるもの。作るなら本物を」と宗先生。食べるものによって、人は良くも悪くもつくり変えられていく。だからこそ、日々の食事 が大切なのですね。
材料を吟味し、本物を作る。それらが身体に沁み渡っていくのをイメージすると、モチベーションも上がります。
今夜も心を込めて、本物のお味噌汁を作ります。
(by Miki)